第2回 三増酒と普通酒について考える

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前回書いたように清酒は本当に落ち込んでいます。特に清酒の中でも「普通酒」の分野が著しく落ち込んでいます。「普通酒」とは何に対して普通なのかについてまず説明いたします。
清酒には、精米の程度などで細かく分類が分けられています。酒販店で良く目にする「吟醸」「大吟醸」「純米大吟醸」という名称(特定名称酒と呼びます)は、この細かい分類のことで法的に根拠が定められいます。「普通酒」というのはこの特定名称酒以外の清酒を差すもので、概ね清酒全体の7割程度が特定名称酒以外の「普通酒」となります。
普通酒の価格帯は缶チューハイや発泡酒といった低アルコール酒と競争にあります。また、特定名称酒も全体では減少傾向です。これらふたつの観点からだけで「普通酒の出荷量減少」という状況をみると「消費者ニーズの変化によって低アルコール飲料に年々シェアを奪われている」といえなくもありません。

しかし、私は普通酒のシェア減少はこうした消費者ニーズによるものばかりではないと考えています。
普通酒がシェアを減少している上でもっとも一番大きな問題は「三増酒」の問題です。通称「三増酒」と書きますが、正式には「三倍増醸酒」と書きます。三倍という名の通り、清酒を仕込み発酵したもろみに醸造用アルコール(要は、蒸留を繰り返すことで製造される純粋なアルコール=甲類焼酎)をいれ3倍に薄め、そこへ糖類と酸味料(アミノ酸)、化学調味料を投入して味を調えた代物です。これは戦時中、米がなかった時代にできる限り清酒と似た味わいでできる限り多くの酒を生産しようという考えから生み出された苦肉の策で、これはこれでファンが付いているのも事実です。しかし、化学調味料で味付けされた酒と匠の技で吟味された原材料を使用している酒が同じ「清酒」というカテゴリでくくられてしまうのは消費者から見れば変な話です。実際、大手居酒屋チェーンやファミリーレストランで提供されている「清酒」はよほど注記がない限り、ほとんどこの「三増酒」です。世間でよく言われる「翌日に残る日本酒」というのはこの三増酒を呑んでいるために発生することが多いと思います。
この三増酒、実は清酒のカテゴリーでは「普通酒」というところに分類されている上に普通酒はほとんどこの三増酒という有様です。三増酒は激しい競争で味わいの向上したビールや発泡酒、缶チューハイに比べると味わいの面では著しく劣ります。そのため、「普通酒=三増酒」という図式から「普通酒=まずい、翌日に残る」というイメージとなり、ひいては清酒全体のイメージダウンにつながっていると考えられます。

清酒が復権するにはまず「清酒」というカテゴリーから「三増酒」を追放することから始めるべきであると考えます。日本には、大正時代に理化学研究所で発明された米を使わずに醸造アルコールや酸味料、化学調味料だけで清酒のような風味を出した「合成清酒」というものが存在しています。清酒業界では「合成清酒という名称は清酒と紛らわしく、名称を『合成酒』とするべきである」という主張を行っていますが、事実上の合成酒である「三増酒」についても『合成酒』として清酒から独立させるべき時がやってきていると思います。その上で普通酒は、一部の良心的な蔵が実施しているように事実上の純米酒でありながら精米をあまりしないなどの方法でコストを下げて消費者へ提供すればよいのです。これによって、もっとも出荷量の多い普通酒のイメージが変わるための土台が完成し、清酒が復権するための第一歩を歩み始めることが可能になります。

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